憲政の本義を説いて其有終の美を斉すの途を論ず1

立憲思想の養成は今日急務であり、立憲思想養成の具体的方法の攻究は、
立憲政治そのものの正確なる理解をもって始まらなければならない。

憲政の何たるやに通じていないのは一般下級の国民ばかりではなく、上級の
所謂識者階級また然りである。

序言

憲政がよく行われるか否かは制度並びにその運用の問題と、国民一般の智徳の問題がある。
国民の発達が未だ低ければ、「少数の賢者」即ち「英雄」に政治上の世話を頼む専制政治若しくは貴族政治となる。
近代の諸国の多くは国民の智徳は高度の発達を遂げており、民権思想と言うものがある程度理解を得ている。
立憲政治のの先覚者である者は、憲政の創設確立に尽力するとともに、国民教導の任にあたって、
一日も早く一般国民を憲政の運用に堪えるものにしなければならない。

ここで吉野は立憲政治の形式を備えながら国民智徳の高低によって憲政の運用の両極端が出ている
例としてアメリカとメキシコを挙げている。

アメリカの指導者→労働者の投票によって志を達する者であるが、また労働者の友、先覚者となって
その精神的指導者たろうとする抱負を有する者。

メキシコ→紛乱ばかりで、惨況にある。
なぜ隣国であるにも関わらず、このような差がでたのか。

アメリカ(北米)はイギリスのアングロ・サクソンが移住してきた所であり、南米は
(ブラジルを除いて)スペインからの移住である。
これよりメキシコとアメリカの差はスペインとイギリスの差と同じである。

また、移住してきた者の本国における階級も重要である。
イギリスからの移住民は本国に於いて、概して最も優良なる階級に属していた。
メキシからの移民は労働者、兵卒等下層階級の者が中心である。

さらに彼らの家族関係も参酌する必要がある。
イギリスからの移民は家族をつれ、移住後も土人と結婚する者はなかった。
メキシコに移住した者は皆妻子を持っていなかったため、さらに道徳上何ら守るところ
あるものではなかったから、土人と雑婚し、多くの混血児を生じた。

今日所謂メキシコ人というのはこれら混血児の事であって、これら混血児は
ただ両親の弱点のみが伝わり、道徳的品性においては、最も劣っているものである。

このように、立憲政治成功の第一要件は国民の教養にある。